ノーマン・ベイツ役 岡本信彦さんインタビュー

『ベイツ・モーテル』でノーマンの吹替に決まった時のお気持ちは?
僕自身はずっとアニメの方でアフレコをしていて、あまり洋画やドラマの吹替はやった事がなかったんです。以前に吹替を担当した作品も、これほどがっつりと話すものではなく、ゲストだったり、2.5次元な作品だったりで。なので海外ドラマの、しかもこれほどのセリフ量の作品というのは経験がなかったのでどうなるのかという想いもあったんですが、ディレクターさんとは以前アニメの仕事でご一緒させて頂いた事があったので、とにかく思った通りにやってみて、違ったらその時に考えようと。緊張はあったんですが、やれるだけやってみようという気持ちで挑みました。

実際に作品を観た印象は?
『サイコ』の前章にあたるドラマという事で、『サイコ』自体は子供の頃に観た事があったんですが、再度観直してみたんです。確かに映像は今とは違ってショッキングなシーンも直接的な絵というのはないんですけど、どこかおぞましかったり、不気味な雰囲気はしっかり出ているんですよね。この『ベイツ・モーテル』も、どこか嫌な空気とか、自分の予想が裏切られていく感じが『サイコ』と似ているなと思いました。だからドラマを観て受ける印象は『サイコ』と似ていると思いますし、ある意味では『サイコ』以上に恐ろしいものを感じるかもしれません。その恐ろしさは誰か一人から感じるというより、いろんな人から感じるのがこのドラマの怖い部分でもあって、本当に町全体がどこかおかしいんです。そこがこのドラマの良さのひとつだと思いましたね。

予想を裏切っていくと言いましたが、まさにノーマン自身がどうなるのか分からない危うさを秘めてますね。
そうなんです。母親のノーマの方も何をするか分からない人で、その遺伝子がノーマンにも受け継がれていて、きっとお兄さんのディランにもそういう要素があるんじゃないかと思います。DNAレベルで怖いものがあるんじゃないかな。

ノーマンを演じる上で特に気を配っている点は?
もともとアニメでは例えば怖い人を演じる時は、随所にこの人どこかおかしいんじゃないかという要素を入れていくんですね。入れるというのは絵で描くだけではなく、声でも入れていくんです。見ている方がちょっと感情の流れがおかしいんじゃないかって違和感を覚えるように。でも吹替の場合はそれをやるとやりすぎになってしまったり、そもそも人間が表現しているものなので、アニメのように分かりやすく動いてはいないんです。なので、画面の中で動く人に合わせるように、イメージとしては器からはみ出さないように気を配るというか、あえて気持ち悪い違和感を声で表現しないように心掛けています。もちろん直接的なシーンだったり、今後ノーマンが表情自体おかしくなっていくようであれば、そういう声を表現していこうとは思っています。

やっぱりアニメと吹替では感覚が違いますか?
いろんな先輩方から一緒だとは言われます。例えば音楽自体も突き詰めていけば全部一緒のところに行きつくようなものだと言われているんですが、自分ではまだスタートラインに立ったばかりなので、勝手が違うなと思う事も多いです。自分の感覚ではやっぱり人間の枠から飛び越えないようにするという意味合いが近いのかなと思いましたね。どちらかと言うとアニメは上に行く感じで、吹替は深く下に潜っていくような感じというか。分かりにくいかもしれませんが。演じる時はアニメは絵を飛び越えて声で立体感を出すんですが、吹替の場合は演じている俳優さんのまとった立体感と整合性を取るような感じなのかな? とまだ分からないところで模索しながら取り組んでます。

岡本さんから見てノーマンの魅力とはどんな部分なんでしょう?
そうですね。ノーマンは女友達のブラッドリーという子から可愛らしいという意味合いで目をかけてもらってたりするんですけど、僕から見ても確かにノーマンは可愛らしさを秘めているとは思います。ただ可愛いのに何かおかしくない? って感じさせるところ、狂気に近くなっていくところが僕にとっては逆に魅力に感じるところなんです。素直で可愛らしい子ではあるんですけど、同時に狂気的で猟奇的なもう一つの顔を持っている両極端な面を持っている子なんですよね。ただ僕が友達としてノーマン・ベイツと会うとすると、そういう面は見えないだろうから、可愛らしくて自分の意見をあまりハッキリ主張しない子なので、僕が引き出してあげなきゃ、っていう気持ちにさせられるかもしれないですね。

ドラマの登場人物で気になるキャラクターはいますか?
ディランですね。彼は最初すごく悪い人という意味合いで語られていて、いざ登場したらやっぱり悪い人なのかと思わせられるんですが、悪い人ではありながら一番良い人でもあるんです。これもこのドラマの気持ち悪いところなんですが、ディランは確かに世間一般からすると悪い事をたくさんしているにも関わらず、この町全体で見ると、普通の悪い人というか、周りが普通じゃない悪い人なせいで、トータルで見ると一番ましな人に見えるし、優しい人に見えてくるという不思議な感覚があるんです。そこが面白い作品だなと思うんですが、そういう事もあって彼が一番気になる存在ですね。

『ベイツ・モーテル』で気に入っているシーンはどこでしょう?
気に入っているシーンは2つあるんですけど、1つは可愛らしくも気持ちが悪いと思ったシーンで、ノーマから愛していると言われてノーマンが僕も愛しているよと答えるところです。これが言葉通りの親子の愛情表現というよりちょっと違う意味の愛してるなんだろうなと台本を読んだ時も思ったんですけど、お母さんに対して家族の愛を超えて、女性として愛しているという部分があるんじゃないかと感じるんです。映画の『サイコ』を見た時は僕は分からなかったんですけど、『ヒッチコック』という映画であのシーンは母親の事を性的に見ていると語っているシーンがあって、という事はここでもノーマンはノーマの事を女性として見ているんだろうなと思いました。ではそれがいつから? となると、今は自覚していないかもしれないけど、その片鱗は見えてていいのかな、と思って、吹替でもそういう点を意識して、逆に素直に愛してるって答えましたね。もう1つはノーマンがおかしくなって、ディランの事を肉たたきで叩こうとするシーンです。ディランが避けていなかったら本当に殺していたんじゃないかというシーンなんですが、そこで初めてノーマンの暴力性が見えて、確実におかしい部分があると分かるシーンなんです。

最終的にノーマンが殺人鬼に至るまでに、いろんな事が起こりそうですが、何が起こるか予測したりはしますか?
まだそんなにはしていないですけど、ストーリーのどの時点から剥製を作るんだろうね、とかは話していますね。あと映画ではのぞき穴が出てきますけど、あれもヒッチコック監督は母親のシャワーを見ていたんじゃないかと言っていたので、ドラマにもそのうちそういうシーンが出てくるかもしれないですね。

岡本さんから見てノーマを演じる日野さんの印象は?
先ほど吹替は深く潜る感じと話しましたが、日野さんの演技はまさにそうだな、と思いました。ノーマってこのドラマの中で多分一番怖い人だと僕は思っていて、それは『サイコ』でもやっぱりノーマが一番怖い人だと思うんです。最初から最後まで怖い人で、得体の知れないパワーを持っている人だな、という印象があって、それで現場に行ってみたら、日野さんがまさにそんな演技をされていて、あんなに華奢な方なのに、なんでこんなにパワフルな声が出るんだろうと驚かされた事があったんです。だから日野さんの印象を一言で言うとパワフルですね。ノーマの怖さというのが随所に散りばめられているんですけど、さらに一瞬にしてそれが母性的な声に変わるんですよね。そのノーマの常人には付いていけないくるくる変わる様が日野さんの声からすごく伝わってきて、逆に日野さんってどんな方なんだろうって思ってしまいました。

すごく刺激を受けました?
そうですね。アニメとはまた違ったやり方という点でも当然刺激を受けたんですけど、そのやり方の中から発せられる声というのにもすごく刺激を受けましたね。音じゃない怖さってあるんだな、と。間だったり、テンポだったり。

最後にドラマを観る方に一言
このドラマは『サイコ』を観ていなくても分かりやすくストーリーが展開されていますけど、気になったら『サイコ』も観て欲しいし、多分あえて映画を観て何が起こったのかを知った上でこのドラマを観るのが一番面白いと思うんです。ノーマとノーマンの関係はどんなだったんだろうとか、気になる部分がどんどん出てきて楽しいと思います。その楽しさが違和感だったり、裏切られていく感じだったり、本来負の感情でポジティブなものではないのに、ここまでハラハラさせられるのは、このドラマの作り方だったり、オリジナル版の印象によるものだと思うので、サスペンスやホラーが好きな方はもちろん、ちょっとグロテスクなものが苦手な方でもギリギリ大丈夫だと思うので、この謎に興味を持って頂いて、このドラマにどんどん翻弄されて欲しいなと思います。